ファイナンス(4)(後半)
株式評価
株の特徴として、時間がたつごとに価格が変動すること、株を保有し続けていれば配当がもらえることなどが挙げられる。
株式資本コストをrEとしたとき、正常な市場では以下の関係式が成り立つだろう。
P0=Div+P1/1+rE
つまり、現在の株価は、1年後の配当と株価の合計を現在価値に直したものに等しい、というわけだ。
また、この式を変形して、
rE=Div/P0+(P1-P0)/P0
としたとき、Div/P0を配当(インカムゲイン)、P1-P0/P0を株価上昇益(キャピタルゲイン)、その合計をトータルリターンと呼ぶ。
ちなみに、株では空売りという行為を行うこともできる。
空売り:後で買い戻すことを前提にして、まだ持っていない株を売ること。高いときに売って下落したときに買えば儲かる。
配当と様々なモデル
株の保有期間が数年にわたる場合、上記の配当金や株価は毎年変化していく。
これを効果的に表したのが以下の数式だ。
𝑃0=𝐷𝑖𝑣1/(1 + 𝑟𝐸)+𝐷𝑖𝑣2/ (1 + 𝑟𝐸) ^2+ ⋯+𝐷𝑖𝑣𝑁/(1 + 𝑟𝐸)^N+𝑃𝑁 (1 + 𝑟𝐸)^ 𝑁
一定配当成長モデル
永久に一定の割合(g)で配当が増加していくモデルを考えることもできる。
この場合は、成長型永久債の公式を用いて、
P0=Div/(rE-g)
と書ける。
しかしながら、これらのモデルにも一定の問題点が存在する。
まず、将来配当の予測は困難で不確実であること。また、配当成長率の小さな変化でさえ、株価は大きく変わってしまうということである。
総還元モデル
P0=PV(将来の配当と自社株買いの総額)/発行済株式総数
これが総還元モデルである。ちなみに、自社株買い(自己株式取得)とは、企業が株主から自社の株式を購入することだ。何がいいかというと、企業が配当と異なった方法で株主に還元できるのである。ただ、当たり前だけど発行済株式数は減ってしまう。
割引フリーキャッシュフローモデル
割引フリーキャッシュフローモデルでは、
営業価値=PV(企業の将来のFCF)
P0=株式時価総額 / 発行済株式総数 = 営業価値+現金-負債 / 発行済株式総数
と定義される。
ここに、加重平均資本コスト(WACC,負債コストと株式資本コストの平均)を導入することで、P0を求めていく。具体的には、VNを求めたのち、配当割引モデルの公式を用いて営業価値を求める。その後それを用いてP0を算出するという流れだ。
類似企業評価法(倍率法)
類似企業の価値を評価倍率により調整して、企業の価値を評価する方法もある。
例えば、株価収益率(PER)の公式に、A社とB社の値を代入することで株価などを求めようとする試みだ。
PER=株価(P0)/一株当たり利益(EPS)= Div / EPS / rE-g = 配当性向 / (rE-g)
しかしながら、この方法では企業間の重要な格差(優秀な経営者・効率的な製造工程・特許による新技術など)を考慮できない。また、類似企業による相対的な情報でしかないので、業界全体が過大・過小評価されていてもわからないという問題がある。
倍率法は使用が簡単で一応株価も用いた方法だが、割引FCF法の方が企業固有の情報も織り込んでいるので、より正確かもしれない。
このように、株式評価モデルは資本コスト、株価、将来のキャッシュフローを結び付けて決定されている。だから、株価に基づく推測は多くの投資家の見解に結び付けられており、有効に機能するのだ。
競争と効率的市場
競争的市場仮説:すべての利用可能な情報は、投資家間の競争を通じて完全に市場価格に反映されている。お得な取引があってもすぐに消滅してしまうというわけ。
公的情報:報道、財務諸表、プレリリースなどがこれにあたる。投資家間の競争がし烈なら、このような情報を投資家は即座に取り入れ反応するだろう。
私的情報:時間をかけて収集した情報、新技術の研究報告などが挙げられる。これを利用すれば利益を得られる可能性があるが、長期間にわたると結局みんながその情報を手に入れようとするので、最終的に効率的市場に近づく。
投資家と経営者への教訓
投資家への教訓
- 有益な取引機会はすぐに消滅する。
- リスクに見合った期待収益を上げる点で、株価はどれも公正である。
経営者への教訓
- 経営者はFCFの現在価値を高める投資に集中してよい。
- 会計数値上の結果は企業価値に直接影響を与えない。
- 株価が適正ならば、株式による資金調達を制限するべきではない。
効率的市場仮説
NPV=期待収益 / 1+(リスクに応じた)資本コスト = 0
リスクの等しい投資機会は、期待収益率も等しくなるという仮説。
ハイリスク・ハイリターンの原則とも呼ばれる。