ファイナンス(9)(後半)
リスクマネジメント
保険
保険プレミアム:損失額を保証してもらう代償として、企業が保険会社に支払う年間の保険料のこと。
保険数理的に公平な保険料=Pr{損失}×E[損失時の支払額] / (1+rL)
rL:損失額の資本コスト
摩擦のない完全市場の場合、保険会社は保険の利益がゼロになるまで競争し、上記の保険料に落ち着くことになる。
つまり、企業と保険会社にとってNPVはゼロであるが、ならどんなメリットがあるのか。
保険のメリット
・倒産関連費用や資金調達費用を負担する可能性が減る。
・税率が保険金受取の時に低ければ節税便益をもたらす。
・倒産を恐れることなく、負債で資金調達できる。
・企業利益、株価のボラティリティが減少し、業績情報としての価値が高まる。
・保険会社の専門的なアドバイスを得られる。
保険のデメリット
・実際の保険料は営業価値や手数料などにより少し高くなる。
・逆選択:リスクの高い企業ほど保険に加入するため、そもそも危なっかしい契約が増える。(逆に言えばリスクの高い企業を識別できる。)
・モラルハザード:保険に加入したことで安心して、リスク回避意識が薄れてしまう。
⇓
デメリットに対する解決策
・免責額:損失額の一部は加入者に自己負担させる。
・支払限度額:保険で補償される上限額を決めておく。
コモディティの価格リスク
コモディティの価格リスク:企業が用いる原材料と製造する製品の市場価値の変化によるリスク。
リスクヘッジの方法
・垂直的統合(企業&供給元。価格変化には対応できるがリスクも共有、目標が異なれば非効率といった問題も。)
・在庫の長期貯蔵(在庫保存にもお金がかかる。)
・長期契約(企業&供給元で長期の供給契約を結ぶ。債務不履行のリスクはある。)
先物契約
将来時点において、資産を事前に定められた価格で取引する契約(義務)
市場価格で匿名で取引され、反対売買によりいつでも契約を解消できる。
担保として最初に一定の証拠金をおさめ、それを上下させ満期日に最終価格を受け渡すことで、信用リスクがなくなる。
為替リスク
為替(通貨交換)レートの変動によるリスク。
絶えず変化しており、変動幅も大きい。
⇓(リスクヘッジ)
為替先渡契約:為替レートを事前に設定する契約(義務)
通常は企業と銀行の相対取引。銀行は財政上の問題が特になく、支払いと受け取り両方の契約を結んで為替リスクを相殺することも可能。
金利平価:無裁定の先渡しレートのこと。
F(一年後)=S(現在)×(1+rUSD)/(1+rEUR)
通貨オプション:事前に定められた為替レートで通貨を交換する権利(義務ではない)
金利リスク
金利の変動によるリスクのこと。
金利が上昇すると短期夫妻による利子支払い額が増加し、金利が下落すると長期負債の現在価値が増加して企業価値が低下する。
これらはキャッシュフロー時点が遠いほど影響が大きくなる。
デュレーション:債権の支払い発生時点の加重平均のことで、金利変化に対する債券価格の感度を表す。要するに。クーポンのある債券などでそれをグラフ上に起こしたとき、重心となるようなところ。
D=ΣT~t=1 PV(Ct)/P*t
資産と負債のデュレーションが異なることで、株式価値は金利変化の影響を受ける。
資産のデュレーションが負債より短いと、株式価値も下落する。
デュレーションマッチング:資産と負債のデュレーションを一致させ、金利変化の影響を打ち消す。
スワップ:契約に基づいて将来の一定期間のキャッシュフローを交換する取引のこと。
ファイナンス(9)(前半)
リアルオプション
リアルオプション:特定の事業活動において、不確実性に対応するため事後的な意思決定を行う権利のこと。
金融オプションとは異なり、市場であまり取引されない。
また、投資意思決定の際にはこの価値を正確に評価する必要がある。
決定木:将来の意思決定と不確実性への解決策を表す図のこと。
■意思決定ノード:意思決定による分岐
●情報ノード:不確実性による分岐
オプションの価値は、「オプションがある場合の期待利益-オプションがない場合の期待利益」によって求めることができる。
また、これをコールオプションとして見立てることで、ブラック・ショールズ公式の適用が可能になる。具体的な対応を以下に示す。
・株価Sと資産の現在の市場価値
・権利行使価格Kと前払いする投資額
・満期日Tと意思決定の最終時点
・無リスク利子率rfと無リスク利子率
・配当Divと延期により逸失するFCF
リアルオプションのトレードオフ問題
投資を延期することによる利益と、延期している間の損失、どちらが大きいか。
成長オプション:プロジェクトの成功が確定したら規模を拡大する。
撤退オプション:プロジェクトの失敗が判明したら中止判断を下す。
リアルオプションの教え
赤字予想のプロジェクトにも価値がある。(将来性を買う)
黒字予想のプロジェクトも今すぐに実行しなくてもよい。(来年もっとあがるかも)
延期することに価値がある。
不確実な環境の場合、リアルオプションを開発して企業価値を創出できる。
流体力学(9)
第3章 流管に沿う流れ
エネルギーの保存
Δt時間における質量保存を考える。
入ってきた流量=出ていく流量となる必要があるので、
ρ1A1u1Δt=ρ2A2u2Δt
となる。
ここで、複数のエネルギーの種類を考えてみる。
運動エネルギー(下線部はm)
1/2 ρAuΔt*u^2
ポテンシャルエナジー(下線部はm)
ρAuΔt*gh
押し込みエネルギー(圧力のする仕事)
PAuΔt
内部エネルギーの変化がないとき(エネルギー保存)、地点1と2において上記のエネルギーの合計は等しくなり、ベルヌーイの定理として、
1/2 u1^2 + gh1 + P1/ρ1 = 1/2 u2^2 + gh2 + P2/ρ2
と表される。
その他のエネルギー
上記のエネルギーのほかに、もし流管内にヒーターがあったりプロペラがあったりしたら、以下のようなエネルギーも発生し、これらについても保存則が成り立ちます。
熱入力
mQ:Qは単位質量当たりの熱量
mΔtQ:熱量(J)
機械入力
mW:Wは単位質量当たりに与えられた動力
mΔtW:機械のした仕事(J)
内部エネルギー
mΔtU:内部エネルギー
U:単位質量当たりの内部エネルギー
流体力学(8)
静止流体の力学
水中の面に働く力
流体力学(7)において、F=ρgHAを考えた。
これは、水中の面に対してかかる力である。
今、ゲートに働く圧力とゲートに働かせる力が釣り合うようにするには、どこにFの力をかければよいのかを考える。(ゲートを回転させない)
この点を、着力点(η)という。
力のモーメント釣り合い式を考えると、
ηF=∫Ymax~Ymin ρgYb(Y)dY*Y
η=1/HA ∫Y^2b(Y)dY
としてこれを求めることができる。
任意の曲面に働く力
任意の曲面に働く力は、デカルト座標系に投影して考える。
各成分の力は、投影面に働く力と等しくなる。
これはかの有名なガウスの定理を用いて、
∫dF = ∫pndS
として知られている。
相対的静止
流速は0ではないが、流体要素が変形しないもの。
慣性力と圧力が釣り合うなど。
直線加速度運動
水面は圧力一定。
圧力と剛力は0でなければならない。また、以下の式を満たす。
tanθ=a/g
dp/dz = -ρg
dp/dx = -pa
ちなみに、微分方程式を解くと、
Pa=-ρgz - ρax + C
となる。
回転運動
回転運動の場合も同様。以下の式を満たす。
dz/dr = rω^2 / g
dp/d = -ρg
dp/dr = ρrω^2
すべての等圧面は、水面の形を中心軸方向に平行移動して得られる。
流管に沿う流れ
一次元流
流管とは、流線を壁面とする管のこと。
(dx,dy,dz)//uであり、
dx/u=dy/v=dz/wが成り立つ。
また、付随してベルヌーイの定理も非常に重要。
ρu^2 /2 + P + ρgz = 一定
ρu^2 /2 :運動エネルギー
P:圧力
ρgz:位置エネルギー
連続の式
非圧縮性流体でρが一定であるとするとき、質量の保存を考える。
ρ1u1A1=ρ2u2A2 [M/L^2*L/T*L^2=M/T]
単位時間あたりに通過する質量が等しいという式である。
よって微小量Δtをかけてあげると質量の単位になる。
体積流量:Q=UA
質量流量:m=ρQ=ρUA
Dimentionに注意!!
ファイナンス(8)(後半)
オプションの評価方法
2状態1期間モデル
二項オプション価格モデルとも呼ばれる。時点0と1を考え、株式だと上下を考え、債権だと1の時点で確実に増加している。コールのペイオフを複製し、保有株式数をΔ、債券投資額をBとして、複製ポートフォリオによる連立方程式を解くことにより、コールの価格を求める。
公式にすると以下の通り。
オプションのペイオフの複製
𝑆𝑢Δ + (1 + 𝑟𝑓)𝐵 = 𝐶𝑢
𝑆𝑑Δ + (1 + 𝑟𝑓)𝐵 = 𝐶𝑑
二項モデルの複製ポートフォリオとオプション価格
Δ = (𝐶𝑢 − 𝐶𝑑) / (𝑆𝑢 − 𝑆𝑑)
𝐵 = (𝐶𝑑 − 𝑆𝑑Δ) / (1 + 𝑟𝑓)
𝐶 = 𝑆Δ + B
各状態の生起確率を知る必要はない。また、Δは株価に対するオプション価格の感度になる。
リスク中立評価
二項モデルのオプション価格式を整理する。
リスク中立確率:ρ =(Rf - d) / (u - d)
関係性0<d<Rf<uより、0<ρ<1が成立。
リスク中立確率で期待ペイオフを計算し、無リスク利子率で割り引いて、オプション価格を計算する。
𝐶 =1/𝑅𝑓[𝜌𝐶𝑢 + (1 − 𝜌) 𝐶𝑑]
𝑃 =1/𝑅𝑓[𝜌𝑃𝑢 + (1 − 𝜌) 𝑃𝑑]
多期間モデル
このモデルでは、樹形図を描いてCuCu、CuCd、CdCdとなる確率をそれぞれ考える。
C=1 / 𝑅𝑓^2 * [𝜌^2*𝐶𝑢𝑢 + 2𝜌 (1 − 𝜌) 𝐶𝑢𝑑 + (1 − 𝜌)^2*𝐶𝑑𝑑]
ブラック・ショールズの公式(コール)
ブラック・ショールズのオプション価格モデルは、二項モデルにおける時間間隔と株価変動を調整しながら、期間数を無限大に増やすことで導ける。
S:現在の株価
σ:株価収益率(年)のボラティリティ
K:コールの権利行使価格
T:満期(年)
とする。コールオプションのブラック・ショールズ価格式は、
𝐶 = 𝑆 × N (𝑑1) − PV (𝐾) × N(𝑑2)
𝑑1 =log[𝑆 / PV(𝐾)] / 𝜎 √𝑇 + 𝜎 √𝑇 / 2
𝑑2 = 𝑑1 − 𝜎 √𝑇
ヨーロッパ&アメリカどちらの型にも適用できる。
ブラック・ショールズの公式(プット)
プットコールパリティ(C=P+S-PV(K))として、コールの価格Cに上記の公式を代入し、1-N(d)=N(-d)を利用して以下を導く。
プットオプションのブラック・ショールズ価格式は、
P =PV (𝐾) × N(-𝑑2) - 𝑆 × N (-𝑑1)
𝑑1 =log[𝑆 / PV(𝐾)] / 𝜎 √𝑇 + 𝜎 √𝑇 / 2
𝑑2 = 𝑑1 − 𝜎 √𝑇
これはヨーロッパ型のみに適用可能。
インプライドボラティリティ
ブラック・ショールズの公式と市場価格が一致するようなボラティリティのこと。
市場価格と整合的な株価収益率のボラティリティをブラック・ショールズ公式から逆算した値になる。
また、二項モデルとブラック・ショールズ公式を用いると、複製ポートフォリオによってコールやプットオプションを再現できる。
保有株式数:Δ = N(𝑑1) 債券投資額:𝐵 = −PV 𝐾 × N(𝑑2)
保有株式数:Δ = −N(−𝑑1) 債券投資額:𝐵 = PV 𝐾 × N(−𝑑2)
ファイナンス(8)(前半)
金融オプション
オプションとは
将来の時点において、資産を事前に契約した価格で購入または売却する権利(※義務ではない)
ロング:オプションの所有者(買い手)
資産を購入または売却する権利を保有し、都合のいいときだけ権利を行使、利益を得る。
ショート:オプションの発行者(売り手)
所有者の要求に応じる義務を負い、所有者に権利を行使されると損失を被る。
プレミアム:オプションの価格(取得費用)
ロングがショートに前払いする。ショートにとっては損失リスクの代償となる。
オプションと収益
ペイオフ:満期日の損益
所有者と発行者で損益が逆転する。満期日の株価をS、権利行使価格をKとするとき、
とあらわされる。
オプションの利益=満期日のペイオフ-取得費用
コールの場合、取得費用が高いほど権利行使価格が低く、株を安くで買える可能性が高まる。
オプションの収益率=(満期日のペイオフ-取得費用)/取得費用
権利行使価格が高いほど収益率は広く分布し、株式よりも極端な収益率になる。
オプションの組み合わせ
ストラドル
同じ権利行使価格のプットとコールの組み合わせ。
投資家の予想:株価が大きく上昇または下落する。
バタフライ
コール(𝐾 = 20)買い + コール(𝐾 = 30) 売り×2 + コール(𝐾 = 40)買い の組合せ。
投資家の予想:株価は大きくは動かない。
プロテクティブ・プット(株式とプットの組み合わせ)によるリスクヘッジ。プットの取得費用が必要だが、株価が下落した場合でも最悪の場合プットの価格で売れる。無リスク債権とコールの組み合わせでも同じペイオフが可能。
プットコールパリティ:「株式+プット」と「無リスク債権+コール」が一物一価の法則より等しいことを考える。
C=P+S-PV(K)
S:株価
P:プットの価格
C:コールの価格
K,PV(K):コールとプットの権利行使価格のことで、PVは満期日の現在価値
満期日以前の権利行使
コールオプションの価格:C= 𝑆 − 𝐾 + 𝑃 + 𝑟𝐾 (1 + 𝑟)
𝑆 − 𝐾 (内在価値):現時点で権利行使した場合の価値
𝑃 + 𝑟𝐾 (1 + 𝑟)(時間価値):権利行使を遅らせることによる価値
権利行使はやめてもあんまりいいことないので、アメリカ型とヨーロッパ型の価格は等しい。ただし、配当がいっぱいもらえる場合などは例外。
プットオプションの価格:𝑃 = 𝐾 − 𝑆 + 𝐶 − 𝑟𝐾 (1 + 𝑟)
権利行使価格と割引率が高い場合に限り、満期日以前に権利行使してメリットがある。
ファイナンス(7)(後半)
資本コストの推定
株式の資本コストに関するCAPM公式
𝑟𝑖 = 𝑟𝑓 + 𝛽𝑖 × (E 𝑅𝑀 − 𝑟𝑓) ※下線部は株式 𝑖 のリスクプレミアム
- 株式 𝑖 の資本コスト:𝑟𝑖
- ベータ値:𝛽𝑖
- 市場の収益率:𝑅𝑀
- 無リスク利子率:𝑟𝑓
株式の資本コストの計算に必要な処理は、
市場ポートフォリオの構築、期待超過収益率の推定、当該株式のベータ値(市場に対する感度)の推定である。
市場ポートフォリオの構築
市場インデックス:市場全体の動向の代理変数となる指標
S&P500:時価総額の大きい米国企業500社
ウィルシャー5000:米国の主要なすべての上場企業
ダウ工業株:30社の大型工業株
これらは、投資信託を利用して容易に投資可能である。
市場のリスクプレミアムの推定
無リスク利子率の決定:国債利回り、最高の信用度をもつ社債利回りなどから推定される。
推定法1:過去のリスクプレミアム(過去の平均超過収益率)を利用。指定誤差が大きいという問題点もある。
推定法2:ファンダメンタル(経済の基礎的条件)法を利用。一定配当成長モデルP0=Div/rE-gを利用する。rM=Div / P0 + g = 配当利回り+期待配当の成長率 である。
ベータの推定
ベータ:証券の収益率の市場収益率に対する感度のことで、超過収益率の散布図にもっともよく当てはまる直線の傾きのこと。
線形回帰:( 𝑅𝑖 − 𝑟𝑓) = 𝛼𝑖 + 𝛽𝑖 (𝑅𝑀 − 𝑟𝑓) + 𝜀𝑖
Ri-rf:目的変数で株価iの超過収益率のこと。
RM-rf:説明変数で市場の超過収益率のこと。
両辺の期待値をとることで、残差は0になるため、
E [𝑅𝑖] = 𝑟𝑓 + 𝛽𝑖( E [𝑅𝑀] − 𝑟𝑓 ) + 𝛼𝑖
が導かれる。
株式のアルファ値(αi):平均収益率の証券市場線からの垂直距離のことで、CAPM理論によれば0にはならない。
負債と資本コスト
負債の資本コスト:債権者が企業に要求する期待収益率のこと。
期待収益率: 𝑟𝐷 = (1 − 𝑝) 𝑦 + 𝑝( 𝑦 − 𝐿) = 𝑦 − 𝑝𝐿 = 最終利回り - 債務不履行の確率 × 期待損失率
負債のベータ:銀行ローンや多くの社債はほとんど売買されないので、負債のベータを推定するには特別な方法が必要である。
プロジェクトと資本コスト
プロジェクトの資本コストとは、類似企業の資産の資本コストであり、類似企業の株式と負債の資本コストの加重平均である。
負債無し資本コスト:𝑟𝑈 =𝐸 / (𝐸 + 𝐷) × 𝑟𝐸 +𝐷 / (𝐸 + 𝐷) × 𝑟𝐷
負債無しベータ:β𝑈 =𝐸 / (𝐸 + 𝐷) × β𝐸 +𝐷 / (𝐸 + 𝐷) × β𝐷
法人税の規定「(所得-負債の支払い利息)×法人税率」によると、負債には節税効果がある。
𝑟:負債の利子率 𝜏𝐶:法人税率 として、
税引後利子率=r(1-𝜏𝐶)
加重平均資本コスト(WACC):𝑟𝑊 =𝐸 / (𝐸 + 𝐷) × 𝑟𝐸 +𝐷 / (𝐸 + 𝐷) × 𝑟𝐷×(1 − 𝜏𝐶)
負債と株式の資金調達割合を見ている。